定期通信 第53号

定期通信53号は、東京農業大学 教授の五十君靜信先生(当法人理事長)による書下ろしです。
是非、ご覧ください。

改正食品衛生法施行後の食の安全の考え方
五十君 静信
特定非営利活動法人 食の安全を確保するための微生物検査協議会 理事長

平成30年6月に公布された食品衛生法の一部改正(改正食品衛生法)では、フードチェーン全体へのHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point; 危害要因分析重要管理点)の導入が制度化され、猶予期間1年を経て、昨年令和3年6月に完全施行となった。

食品の国際規格を定めるコーデックス委員会において、HACCPは、食品衛生管理の国際標準となっており、EU並びに米国などの先進国では、以前より実施することが義務化されており、国外から輸入する食品の要求事項ともなっている。

カナダなど多くの国や発展途上国でも、HACCPの実施義務化が行われている。わが国も今回のHACCPの制度化により、ようやくコーデックスの求める食品のリスクマネージメントの基礎となる条件を満たすことになり、食品の国外からの輸入に関してHACCPの実施を要求事項とすることができるようになった。HACCPの導入により食品を汚染する危害要因の制御は以前に増して精度高くコントロールされることが期待される。

食の安全の考え方

HACCPが制度化されたことにより、危害要因による人の健康被害はこれまでに比べより高精度にコントロールされることが期待できることになる。すなわち食品を取り扱う業者により、食品を外部から汚染する有害微生物、有害化学物質、硬質異物等の危害要因は、HACCPが適切に運用されると人に健康被害を及ぼさないレベルで管理されることになる。

食の安全では、食品を外部から汚染する危害要因の制御が充分に行われることになると、次は食品そのものの安全をどのように考えるかといった議論が必要となってくる。食品そのものの安全を考えてみると、医薬品等とは異なり、食品では安全性評価などにより安全であると判断され、その結果、安全な食品とされてきたわけではないことに気がつく。

一般的な食品は、長期にわたり食品として安全に食されてきたという経験(食経験)と多少の問題のある食品についてはその加工や調理によって安全に食してきたという実績を含めて安全な食品とされてきた。これらの考え方は、遺伝子組換え食品の安全性の評価の検討の中で整理された考え方である。

現在、遺伝子操作技術の発展はめざましく、この技術を用いた植物、動物、微生物などの育種によりこれまでになかった新たな機能を有する食品の研究や開発が急速に進んでおり、健康維持など生体への有用な機能の付与を目指した新規食品の開発が行われている。

また、乳酸菌などに代表される有用微生物では、これまでに知られていなかった新たな機能をもった新たな菌株が自然界から分離され、当該株の持つあらたな人への効果が次々と報告されている。このような食の多様化や食経験のない新規開発食品に対応した安全性については、定められた安全に関する考え方や安全性の評価方法が定まっているわけではない。コーデックスには、遺伝子組換え食品に関する安全性のガイドラインは示されているものの、組換え食品以外の新規開発食品に関する安全性の考え方は示されていない。

今後はこのような新規開発されたあるいは、食経験に関しては十分な情報のない微生物等の安全性をどのように担保していくかの議論が必要となり、それらの安全性評価には、科学的根拠のある新たな食品の安全性の考え方や評価手法が求められることになると思われる。

以上


(更新:2022.5.10)

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