定期通信第48号 Q&A ― パネルディスカッションの質疑の概要と追加コメント

3月15日に開催された2020年度研修会のパネルディスカッションにおける議論に、演者及びオーガナイザー協力による追加コメントを加えた“Q&A”を公開します。
定期通信第48号とともにご覧ください。

パネルディスカッションの詳細は、当協議会の会員であればVimeoでご覧いただけます。お知らせの「研修会の様子をご覧いただけます」にて、視聴方法をご案内しています。

質問 1

寒天培地上の細菌は液体培地と比べて酸化しやすいのはなぜなのでしょうか?
会場での回答の概要

寒天培地上では直接空気に触れているが、液体培地中は例えればヘドロの中に菌が浮遊しているような状態であり、空気に触れる機会が限られていると考えられる。

坂元先生からの追加コメント

気相では酸素分子は猛烈なスピードで飛び回り、化学反応(ここでは酸化反応、燃焼や呼吸も酸化反応の一種)は衝突速度が速いほど進行しやすいです。大気圧の中には酸素のモル分圧が含まれます。分子運動は高温になるほど速く、化学反応は進みます。

一方、液体中では酸素の分子運動が遅いです。さらに液体中では溶解可能な酸素量は余程高圧な条件にしない限り、飽和量が決まっており、それほど溶けません。液体中に溶け込んでいる酸素も細菌の呼吸に利用されますが、撹拌しない限り消費され、酸素不足になります(消費と溶解の平衡状態)。

また液体中では高温になると溶け込んでいた酸素は気相へ飛び出していきます(高温ほど液相から脱出しやすい)。つまり酸化反応は酸素量や運動速度に依存しているので気相の方がはるかに起こりやすいです。

質問 2

最近のみそ(減塩・だし入り)は、昔ながらのみそと比べて、EHEC O157の消長の動きにちがいはあったののでしょうか?
会場での回答の概要

昔の味噌は塩分が14~16%と高く、減塩タイプでは6%前後と低いため菌の減少が穏やかと思われます。出汁入りタイプはエタノールが添加されている製品が多く、菌が死滅し易い要因の一つと考えています。

ただし、味噌のエタノール濃度と菌数の間に関係はみられていません。恐らく、出荷から時間が経過していることでエタノールが減少しているためと思われます。また、出汁入り味噌は水分活性が高めであり、講演で示したように菌が死滅し易い減少が確認されたと思われます。

オーガナイザーからの追加コメント

この実験については、以下の論文を参考にしてください。

細谷ほか「市販味噌に混入させた大腸菌O157の消長」日本食品科学工学会誌
2020年67巻10号 p.376-383
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/67/10/67_376/_article/-char/ja/

質問 3

スライド17 PBS中のS.Eの損傷菌評価について、定量PCRを用いたGDTと2重平板法とを比較していたが、濁度による生育遅延解析法との比較は検討したのでしょうか?
会場での回答の概要

坂元先生が提示された「生育遅延解析法」による比較は行っていません。

質問 4

食品によっては損傷菌が懸念されることもあります。日々の検査の中に、損傷菌の検査を導入する基準や目安のようなものはありますでしょうか?(食品のカテゴリーや、製法、理化学的特性等)
会場での回答の概要
  • 現場で問題となっている、有害と考えられる菌、などに対象を絞るべきでしょう。全てを対象にすることは現実的ではないと思われます。流通時に問題となるものを選択するなど、自社にとって最適化する必要があります。
    実際の食品微生物検査では選択培地を使用することが多いですが、損傷菌研究の視点から考えると選択培地では生育せず陰性と判断される場合でも損傷菌として存在している可能性があるため注意が必要と思われます。
    培地に書かれている使用法を妄信しすぎず、検査法の特性なども理解した上で最適化することが良いでしょう。
  • 培地を色々と試してみる必要があります。通常と異なる検査結果が出てきた場合には、損傷菌の存在を疑って検査してみる、ということで良いかと思います。
坂元先生からの追加コメント

IDF standard(国際酪農連盟スタンダード)での乳および乳製品の大腸菌検査の項目では、国際標準化機構のISO 11866-2: 2005に準拠しています。この手法ではアミロースアセテート膜への大腸菌捕集後にミネラル添加のグルタミン酸含有寒天上での37℃、4時間の「回復培養」の操作が導入されてます。

いきなり選択培地に曝されることで死滅として判定されるリスクを回避する、初期細菌数の増加が起こったとしても生菌数をゼロとする誤判定を避けるためのこの操作は、「加熱、薬剤処理、乾燥、低温、凍結で損傷を受けた大腸菌の検出向上のため」と記載されています。海外ではこのように損傷菌の回復が配慮されている標準検査法もあります。

このような回復培養が比較的ハードルが低く、これまでの方法に導入しやすいのではないでしょうか。他には既存の選択培地の延長上としてTAL(Thin agar layer)法のように薄層の培地層への選択薬剤の浸透の遅れを利用し、蘇生(回復期間)を考慮した二重平板法の適用があります。

オーガナイザーからの追加コメント
  1. 「食品衛生指針」に記載されている培養温度は低温細菌にとっては高すぎることも少なくないので、注意を要します。
  2. 自分が扱っている食品がどのような原料を使用して作られており、それがいかにして加工され、その後、どういう条件で流通・保管するかという点から、損傷菌の存在まで考えた対応が必要であるかどうか考えた方が、必要以上の労力と資金を使用せずにすむと思います。

質問 5

デソ(24時間培養)や標準寒天では48時間培養の結果で判定することになっていますが、損傷菌を考慮すると、48時間での結果(菌数)の信頼性は、どの様に評価したら良いでしょうか?
会場での回答の概要

公定法を採用する場合、その結果はその通りに受け止めれば良いでしょう。目的次第です。食品企業の自主検査を考えた場合、目的とする菌が「いる・いない」の定性で考えるのではなく、平常からの変化を知れば良いと考えてはいかがでしょうか。一つの方法で対象菌の増減を知れば良いと思います。病原菌など、絶対に居てはならない菌がある場合には「いる・いない」で判定する必要があります。菌の増殖理由に損傷菌を考える場合には、検査方法を考える必要が出てきます。

オーガナイザーからの追加コメント

自主衛生管理のための細菌検査であれば、自社で一度、培地や培養時間を変えて、どれくらい結果が変わるか調べてみるとよいと思います(その結果をどう理解・判断するかという点について、一般的なルールはありません)。

国は通知法では損傷菌のことを何も触れていませんが、どう対応したらよいのでしょうか?
会場での回答の概要
  • 裁判で耐えられる正攻法は培養法(公定法)で、これは基準適合性の判断に使用されます。しかし、自主衛生管理は目的適合性に合った方法を決めて使えばよいと思われます。最近は、SDGsで賞味期限を延ばしたい、健康志向に配慮して塩分を減らしたいなどの傾向がみられます。こうした場合は、損傷菌も考慮すべきであり、必ずしも培養法(公定法)が最適とは言えません。
  • 食中毒菌の定性試験では非選択性の前培養で増菌することから、損傷菌を考慮していると思われますが、夾雑菌も増やしてしまうことで必ずしも損傷菌を評価できるとはいえません。
坂元先生からの追加コメント

公定法にはとりあえず従う方が無難。増殖の早い菌の場合、コロニーが大きくなりすぎて重なり、正確な数の判定に支障が出るなら24時間でも数え、遅れて増殖してくる(損傷菌)を検出するなら寒天培地が乾燥しすぎないところまで、定期的に別の色のマーカーなどでチェックして、工程法の信頼性を自ら検証する。

またはデソなど選択成分を含有している培地ならTAL法を導入した二重平板で差分を調べる。TAL選択培地での方がコロニー数が多い場合、選択培地により死滅した損傷菌がいた、普通の培地では増殖可能な損傷菌が存在したとの判断になる。

オーガナイザーからの追加コメント

培養法を用いた生育遅延解析は無菌の液体食品以外に適用しにくいと思います。

質問6

損傷菌は培地の成分に影響をうけるとのことですが培地中の天然成分やロット差のようなものにも影響をうけることはありますか?
会場での回答の概要

受けていると考えられます。天然成分を豊富に含む培地で発育してきた菌は虚弱な傾向があり、最小培地で発育する菌は丈夫な傾向があります。天然成分はバラつきが多く、不純物の差もあるようで、同じ種類の培地を用いて実験しても結果が異なることも経験しています。寒天を例にしてもメーカー間差、ロット間差もあり、できるだけ同じものを使用することが望ましいと言えます。

坂元先生からの追加コメント

公定法で選ばれている標準寒天培地は天然成分を使用していても非常に安定している印象がある。メーカー独自で成分分析してロット差が出ないよう品質保証が進んでいるのでは。

質問7

リアルタイムPCRによるGDTの算出の実験方法について、回復培養20時間の間に2時間おきにサンプリング・DNA抽出をしているようですが、大変な作業だと思うのですが、実際どのようにされているのでしょうか。手作業ですか、自動装置などがあるのでしょうか?高食塩ストレス暴露の実験では6時間おきに採取されているようですが、手作業でしょうか?
会場での回答の概要

手作業で行っており、当室では自動化を検討しています。高食塩ストレス暴露の実験も手作業であり、近年では問題となっていますが徹夜で行っています。DNAの抽出効率は食品から直接抽出することも可能ですが、食品によって前処理を加えないと良い結果が得られないこともあります。

PCRの機器が高価で食品企業の現場には導入しにくいのではないか?

PCR装置は現場に持ち込むものではないのですが、条件設定などの検討で使用することになります。リアルタイムPCRの機器だと数百万円の装置が必要になるかと思われます。

オーガナイザーからの追加コメント

ある程度までの自動化は可能と思われるものの、そもそもこれは一企業が導入して利益が出るような検査手法ではないと思います(将来的に、公設の食品技術センターのようなところが対応できるようになればよいのでは)。

質問8

カット野菜の消費期限の確認の一部に、O157のイムノクロマトの利用を指導していますが、損傷菌の存在を考慮した場合には適切でしょうか不適切でしょうか?通常のPCR、EC培地も併用しています。気をつけるべきことがあれば御教授下さい。
会場での回答の概要

原理的に菌の生死によらず反応するので、菌の損傷状態は関係しないでしょう。イムノクロマトでO157の検査はやっても無駄です。感度が低いので、万が一検出されるほどの菌がいれば、人の生き死になってしまいます。衛生管理を考えた場合、通常のE.coliの検査を行い、菌が増えてきたら工程を見直すなどするほうが実用的でしょう。

坂元先生からの追加コメント

抗体の感度よりも増幅培養した後のO157選択培地や、さらにPCR検査の感度の方が比較にならないくらい高い。損傷菌は生死判定の問題で、1細胞でも生存すれば指数的に増幅する危険性がある。イムノクロマトは抗原の検出感度の量の有無で、生死はわからない。仮に検出されるなら相当な細胞数が存在していたことになる。

パネラーからの総括コメント

  • 損傷菌の検査については、導入を考える各企業が自社の製品の特性を考慮した上で目的に沿って最適化するしかありません。どこかで妥協せざるを得ませんので、ほどほどにすることが必要です。
  • 現場が「変なことが起こっている」と実感されますが、なかなか状況を教えていただくことがありません。是非、教えていただきたいと思います。機会があればご連絡ください。
  • 本日の情報提供が皆様のお役に立てると良いのですが、なかなか難しいかと思います。損傷菌による問題は自己リスクとなりますので、その対応にご協力できればと思います。ただ、最後は自分で頑張るしかないということを忘れないでいただきたい。

以上

(更新:2021.5.6)

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