定期通信 第48号

定期通信第48号は、3月15日に中央区立日本橋公会堂で開催しました、2020年度研修会の聴講録です。演者の坂元仁先生と細谷幸恵先生に特別のご配慮をいただきまして、スライド数枚を組み込んで、ご講演の概要をお伝えできる内容となっています。是非、会誌「食の安全と微生物検査」第10巻第3号をお手元において、ご覧ください。

講演1
損傷菌の損傷要因を探る
坂元 仁 大阪府立大学 研究推進機構 微生物制御研究センター 客員研究員

微生物制御において微生物の生死は重要であるが、この微生物の生死判定も、生死の概念や評価法に影響され、多くの問題を抱えている。ゆえに、公定法の基準値をクリアしていても滅菌できていない可能性があり、食品製造分野において栄養や風味の劣化を避け、より質の良い安全基準を設定する場合、容易に無視することができない。この問題に関わってくるのが損傷菌である。損傷菌とは、損傷により増殖できなくなったがまだ生存している微生物であり、生存の可能性があるにも関わらず、死滅として判断される殺菌効率の過剰判定の問題がある。

生死をどう評価するか

微生物の生死判定は主に直接法と間接法がある

直接法
  1. 固体培地上でコロニー形成する場合は生細胞
  2. 液体培地で濁度上昇がある場合は生細胞
  3. 顕微鏡下で細胞分裂や細胞伸長が観察される場合は生細胞
間接法
  1. 細胞膜に巨大な穴がある場合は死細胞(ヨウ化プロピジウムで核染色されるか否か)
  2. 呼吸活性がある場合は生細胞(CTC染色)
  3. エステラーゼ活性がある場合は生細胞(CFDA染色)

現在、日本国内では固体培地上でのコロニー形成数(直接法)が、生菌数評価の標準法として利用されている。 海外では液体培地を用いた最確数法の適用も多い。

生死判定の問題点

損傷菌の損傷要因を探る:スライド1

ガンマ線照射処理を行った大腸菌を直接法と間接法(CTC・DAPI染色)で比較を行ったところ、コロニー形成数での生存率は照射線量に応じて指数的に低下した。間接法では、蛍光強度に変化はなく生細胞と判定され、直接法と間接法に相関性がないことが判明した。一般に生死判定試薬として販売されているものであっても相関関係の検証なしでの適用は危険を含んでいる。平板上でコロニー形成させることができない生存の可能性のある微生物を死滅として判断している問題や選択培地の選択成分が弱体化した損傷菌にとっては死滅に働く可能性も懸念される。

寒天培地による固体培養法の問題点

損傷菌の損傷要因を探る:スライド2

平板法はコロニーの大きさ関係なく全て1コロニーと判定されるため、微生物の損傷程度のバラツキが考慮されていないことやすべての微生物を平板上でコロニー形成させることができない問題点がある。培地成分の最適化でコロニー数を最大限にする検討と生育遅延解析法(液体培地での細胞発育過程を解析することで、生存比を算出する方法、独立した細胞だけではなく、集合性のものや菌糸状のものにも適用できる)の2つの手法の差分から健常菌、損傷菌、死菌の割合を算出できストレス処理による損傷程度を高感度かつ迅速に評価することができる。

分子生物学的手法を損傷・死滅の解析に適用

耐性や修復に関与する因子を欠損させた変異株を用いて感受性を示した場合、加熱、電磁波、薬剤の作用機作や弱点を推定するツールになる。また、遺伝子破壊株からの損傷機構の評価は、薬剤の作用機作の特定に繋がり、コロニー形成回復物質の探索は、損傷菌検出のための蘇生培地の確立に有用な情報源となった。

細菌胞子の損傷・死滅の解析

損傷菌の損傷要因を探る:スライド3

食品製造分野において細菌胞子の制御も重要な問題である。グラム陽性細菌の一部が形成する胞子は高い耐熱性および薬剤耐性を示す。食品へは加熱が一般的であるが、高温滅菌処理ができない食品容器等には、過酸化水素等が汎用される。こうした、加熱や過酸化水素等の細菌胞子に対する殺滅作用機構の違いを枯草菌の胞子コア内蛍光タンパク質発現胞子や、各種の胞子の耐性に関与する遺伝子破壊株を宿主として胞子コア内蛍光タンパク質の変性挙動から胞子コア内損傷や薬剤作用機作を調査した。こうした損傷箇所や損傷レベルの可視化は食品製造分野におけるより質の良い安全基準を設定するのに役立つだろう。

以上

(更新:2021.4.8)

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講演2
定量PCR法を活用した損傷菌の損傷度評価法の開発
~食品混入下で発生しうる損傷菌への適用を目指して~
細谷 幸恵
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門食品安全研究領域 食品衛生ユニット 主任研究員

食品加工時の殺菌・静菌処理

食品に混入している菌は、殺菌工程を含め、様々な食品加工(加熱、乾燥、冷凍等)、食品環境(水分活性、pH、浸透圧等)からのストレスに曝される。適切な殺菌・静菌条件で処理された場合に菌は死滅するが、そのストレスが死に至らない程度のものであった時には瀕死の状態となる。このような状態にある菌は損傷菌と呼ばれている。

例えば伝統的な発酵調味料である味噌を例に挙げると、食塩濃度約12%、水分活性値がおよそ0.7、pH 4.8-5.2、乳酸菌や麹菌、バシラス属菌等、競合微生物を雑多に含む食品であるが、味噌そのものを原因とする食中毒事件は発生しておらず、微生物学的安全性が高い。1989年の研究報告によると、味噌に混入された大腸菌は食塩濃度に関係なく温醸では4~7日、天然醸造では20日で死滅するとされている。

その後、味噌中における菌の消長に関するデータがとられていないので、大腸菌O157に関する味噌中での消長のデータを収集し始めた。市販味噌24種類について大腸菌O157を接種し、各種温度条件下で接種菌が検出限界以下になる日数を検討していた中で、寒天培地では発育不能でも液体培地では増殖可能なこと、保存期間が長くなると、寒天培地上のコロニー形成が遅れる傾向など、損傷菌に特徴的な現象が観察された。

食品における損傷菌の問題

損傷菌は通常の衛生検査法で培養できない場合がある(見かけ上の死菌状態)。また、菌体の補修に時間を要するため、培養時にコロニー形成の遅れや増殖遅延を生じる特徴があり、これも菌数計測の正確性に不安を生む原因となる。食品や原材料、製造現場に生息する微生物は、加工や殺菌処理時のストレスによって損傷を受ける。

定量PCR法を活用した損傷菌の損傷度評価法の開発:スライド1

細胞損傷の程度が甚大な場合は即死するが、軽微な損傷の場合は、生死が定まらない状態にとどまり、この状態にある微生物を損傷菌と呼ぶ。損傷菌の特徴としては、薬剤感受性の変化と増殖遅延によって判断される。2011年にドイツ・ハンブルク市を中心に発生したスプラウトを原因食品とする多剤耐性大腸菌O104のアウトブレイクでは、発生から2か月にわたり菌が検出されなかったが、これは損傷菌が関係していたと考えられている。

損傷菌の評価(定量PCRを用いた増殖遅延時間(GDT)観察)

現在、損傷菌の評価は、2重平板法、TAL(Thin-Agar-Layer)法、生育遅延解析法、蛍光2重染色法、EMA-qPCR法等の手法が確立されている。しかしながら、これらを食品に適用する場合には、食品残渣、食品成分、食品に付着した雑菌の影響から、食品に直接混入している菌での評価、あるいは食中毒菌に限定した損傷度評価は困難である。

さらに、食品中で損傷を被った食中毒菌を対象とした場合には、食品成分(糖類、脂質、ペプチド等)による保護作用や、食品環境そのものから受けるストレス(乾燥、低pH、栄養枯渇等)の要因が複合的、かつ複雑に作用することが考えられ、培地環境でストレスを与えた場合とは同等のストレスが加わらず、全く異なる死滅挙動を示すことがある。

それゆえ、仮に同一のストレスに暴露したとしても、食品に直接混入している菌の損傷を、培地試験系に基づく先行研究の知見と単純に比較し、推定することは難しい。これまで経験的に安全と認識されてきた食品はもちろんのこと、新しい特性を付与、あるいは新しい加工法により製造された食品を微生物試験に供する場合には、「混入している有害細菌が十分に殺菌、静菌されているのか」「損傷菌の状態で生存を続ける可能性はないか」という視点も含めて、安全性を検討する必要がある。

したがって、食品における損傷菌発生の実態把握と、損傷菌の明確な測定方法および回復に関わる研究は、食品の安全性向上に限らず、食品開発の観点からも重要な意味を持っている。以上の背景から、演者らは損傷菌の増殖遅延現象に着目し、食品混入下で殺菌処理を施した食中毒菌の回復培養過程を、リアルタイム定量PCRでモニタリングすることにより増殖遅延時間(Growth delay time,GDT)を算出し、これを「菌体の損傷度」の指標とすることで、損傷度合いを数値的に表現することを見出した。

定量PCR法を活用した損傷菌の損傷度評価法の開発:スライド2

本手法を用いて、PBS中でのSalmonella Enteritidisの挙動を観察し、その後、牛ひき肉中でのS.Enteritidisの加熱損傷処理による増殖遅延現象の観察、大腸菌O157を高食塩培地に暴露させた際の損傷度評価などを継続した。これらの基礎的研究の結果を踏まえ、味噌に暴露された大腸菌O157のGDTを観察した結果、保存時間に依存してGDTが直線的に延長し、またGDTの延長には保存温度が大きく影響を及ぼす結果が得られ、味噌への接種試験と同様の傾向が、GDT観察法により観察されることが明らかとなった。

損傷菌評価法の要求レベルとその必要性

定量PCR法を活用した損傷菌の損傷度評価法の開発:スライド3

損傷メカニズムを明らかにする研究と、食品衛生の現場に対応した研究は考え方が大きく異なっており、そもそも損傷菌が「どの程度の量で」「どのレベルで」存在し、「あとどのくらい処理をしたら死菌になるのか」については全く分かっていない。同様の加熱条件でも、食品ではストレスのかかり方が異なっており、PBSや培地系の試験で殺菌効果を評価する手法は食中毒リスクを過小評価してしまう可能性がある。

一方で食べ物に過剰な殺菌処理を行うと、食品そのものの品質・魅力を損なうことになる。食品の中で損傷菌として生き残るリスクを明確にできれば、より魅力的な食品の創造につながると考える。

以上

(更新:2021.4.8)

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一方で食べ物に過剰な殺菌処理を行うと、食品そのものの品質・魅力を損なうことになる。食品の中で損傷菌として生き残るリスクを明確にできれば、より魅力的な食品の創造につながると考える。

パネルディスカッション
パネルディスカッションの質疑の概要と追加コメント

パネルディスカッションの詳細は、当協議会の会員であればVimeoでご覧いただけます。お知らせの「研修会の様子をご覧いただけます」にて、視聴方法をご案内しています。

質問1
寒天培地上の細菌は液体培地と比べて酸化しやすいのは
なぜなのでしょうか?

会場での回答の概要

寒天培地上では直接空気に触れているが、液体培地中は例えればヘドロの中に菌が浮遊しているような状態であり、空気に触れる機会が限られていると考えられる。

坂元先生からの追加コメント

気相では酸素分子は猛烈なスピードで飛び回り、化学反応(ここでは酸化反応、燃焼や呼吸も酸化反応の一種)は衝突速度が速いほど進行しやすいです。大気圧の中には酸素のモル分圧が含まれます。分子運動は高温になるほど速く、化学反応は進みます。

一方、液体中では酸素の分子運動が遅いです。さらに液体中では溶解可能な酸素量は余程高圧な条件にしない限り、飽和量が決まっており、それほど溶けません。液体中に溶け込んでいる酸素も細菌の呼吸に利用されますが、撹拌しない限り消費され、酸素不足になります(消費と溶解の平衡状態)。

また液体中では高温になると溶け込んでいた酸素は気相へ飛び出していきます(高温ほど液相から脱出しやすい)。つまり酸化反応は酸素量や運動速度に依存しているので気相の方がはるかに起こりやすいです。

質問2
最近のみそ(減塩・だし入り)は、昔ながらのみそと比べて、EHEC O157の消長の動きにちがいはあったののでしょうか?

会場での回答の概要

昔の味噌は塩分が14~16%と高く、減塩タイプでは6%前後と低いため菌の減少が穏やかと思われます。出汁入りタイプはエタノールが添加されている製品が多く、菌が死滅し易い要因の一つと考えています。

ただし、味噌のエタノール濃度と菌数の間に関係はみられていません。恐らく、出荷から時間が経過していることでエタノールが減少しているためと思われます。また、出汁入り味噌は水分活性が高めであり、講演で示したように菌が死滅し易い減少が確認されたと思われます。

オーガナイザーからの追加コメント

この実験については、以下の論文を参考にしてください。

細谷ほか「市販味噌に混入させた大腸菌O157の消長」日本食品科学工学会誌
2020年67巻10号 p.376-383
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/67/10/67_376/_article/-char/ja/

質問3
スライド17 PBS中のS.Eの損傷菌評価について、定量PCRを用いたGDTと2重平板法とを比較していたが、濁度による生育遅延解析法との比較は検討したのでしょうか?

会場での回答の概要

坂元先生が提示された「生育遅延解析法」による比較は行っていません。

質問4
食品によっては損傷菌が懸念されることもあります。日々の検査の中に、損傷菌の検査を導入する基準や目安のようなものはありますでしょうか?(食品のカテゴリーや、製法、理化学的特性等)

会場での回答の概要
  • 現場で問題となっている、有害と考えられる菌、などに対象を絞るべきでしょう。全てを対象にすることは現実的ではないと思われます。流通時に問題となるものを選択するなど、自社にとって最適化する必要があります。
    実際の食品微生物検査では選択培地を使用することが多いですが、損傷菌研究の視点から考えると選択培地では生育せず陰性と判断される場合でも損傷菌として存在している可能性があるため注意が必要と思われます。
    培地に書かれている使用法を妄信しすぎず、検査法の特性なども理解した上で最適化することが良いでしょう。
  • 培地を色々と試してみる必要があります。通常と異なる検査結果が出てきた場合には、損傷菌の存在を疑って検査してみる、ということで良いかと思います。
坂元先生からの追加コメント

IDF standard(国際酪農連盟スタンダード)での乳および乳製品の大腸菌検査の項目では、国際標準化機構のISO 11866-2: 2005に準拠しています。この手法ではアミロースアセテート膜への大腸菌捕集後にミネラル添加のグルタミン酸含有寒天上での37℃、4時間の「回復培養」の操作が導入されてます。

いきなり選択培地に曝されることで死滅として判定されるリスクを回避する、初期細菌数の増加が起こったとしても生菌数をゼロとする誤判定を避けるためのこの操作は、「加熱、薬剤処理、乾燥、低温、凍結で損傷を受けた大腸菌の検出向上のため」と記載されています。海外ではこのように損傷菌の回復が配慮されている標準検査法もあります。

このような回復培養が比較的ハードルが低く、これまでの方法に導入しやすいのではないでしょうか。他には既存の選択培地の延長上としてTAL(Thin agar layer)法のように薄層の培地層への選択薬剤の浸透の遅れを利用し、蘇生(回復期間)を考慮した二重平板法の適用があります。

オーガナイザーからの追加コメント
  1. 「食品衛生指針」に記載されている培養温度は低温細菌にとっては高すぎることも少なくないので、注意を要します。
  2. 自分が扱っている食品がどのような原料を使用して作られており、それがいかにして加工され、その後、どういう条件で流通・保管するかという点から、損傷菌の存在まで考えた対応が必要であるかどうか考えた方が、必要以上の労力と資金を使用せずにすむと思います。

質問5
デソ(24時間培養)や標準寒天では48時間培養の結果で判定することになっていますが、損傷菌を考慮すると、48時間での結果(菌数)の信頼性は、どの様に評価したら良いでしょうか?

会場での回答の概要

公定法を採用する場合、その結果はその通りに受け止めれば良いでしょう。目的次第です。食品企業の自主検査を考えた場合、目的とする菌が「いる・いない」の定性で考えるのではなく、平常からの変化を知れば良いと考えてはいかがでしょうか。一つの方法で対象菌の増減を知れば良いと思います。病原菌など、絶対に居てはならない菌がある場合には「いる・いない」で判定する必要があります。菌の増殖理由に損傷菌を考える場合には、検査方法を考える必要が出てきます。

オーガナイザーからの追加コメント

自主衛生管理のための細菌検査であれば、自社で一度、培地や培養時間を変えて、どれくらい結果が変わるか調べてみるとよいと思います(その結果をどう理解・判断するかという点について、一般的なルールはありません)。

国は通知法では損傷菌のことを何も触れていませんが、どう対応したらよいのでしょうか?

会場での回答の概要
  • 裁判で耐えられる正攻法は培養法(公定法)で、これは基準適合性の判断に使用されます。しかし、自主衛生管理は目的適合性に合った方法を決めて使えばよいと思われます。最近は、SDGsで賞味期限を延ばしたい、健康志向に配慮して塩分を減らしたいなどの傾向がみられます。こうした場合は、損傷菌も考慮すべきであり、必ずしも培養法(公定法)が最適とは言えません。
  • 食中毒菌の定性試験では非選択性の前培養で増菌することから、損傷菌を考慮していると思われますが、夾雑菌も増やしてしまうことで必ずしも損傷菌を評価できるとはいえません。
坂元先生からの追加コメント

公定法にはとりあえず従う方が無難。増殖の早い菌の場合、コロニーが大きくなりすぎて重なり、正確な数の判定に支障が出るなら24時間でも数え、遅れて増殖してくる(損傷菌)を検出するなら寒天培地が乾燥しすぎないところまで、定期的に別の色のマーカーなどでチェックして、工程法の信頼性を自ら検証する。

またはデソなど選択成分を含有している培地ならTAL法を導入した二重平板で差分を調べる。TAL選択培地での方がコロニー数が多い場合、選択培地により死滅した損傷菌がいた、普通の培地では増殖可能な損傷菌が存在したとの判断になる。

オーガナイザーからの追加コメント

培養法を用いた生育遅延解析は無菌の液体食品以外に適用しにくいと思います。

質問6
損傷菌は培地の成分に影響をうけるとのことですが培地中の天然成分やロット差のようなものにも影響をうけることはありますか?

会場での回答の概要

受けていると考えられます。天然成分を豊富に含む培地で発育してきた菌は虚弱な傾向があり、最小培地で発育する菌は丈夫な傾向があります。天然成分はバラつきが多く、不純物の差もあるようで、同じ種類の培地を用いて実験しても結果が異なることも経験しています。寒天を例にしてもメーカー間差、ロット間差もあり、できるだけ同じものを使用することが望ましいと言えます。

坂元先生からの追加コメント

公定法で選ばれている標準寒天培地は天然成分を使用していても非常に安定している印象がある。メーカー独自で成分分析してロット差が出ないよう品質保証が進んでいるのでは。

質問7
リアルタイムPCRによるGDTの算出の実験方法について、回復培養20時間の間に2時間おきにサンプリング・DNA抽出をしているようですが、大変な作業だと思うのですが、実際どのようにされているのでしょうか。手作業ですか、自動装置などがあるのでしょうか?高食塩ストレス暴露の実験では6時間おきに採取されているようですが、手作業でしょうか?

会場での回答の概要

手作業で行っており、当室では自動化を検討しています。高食塩ストレス暴露の実験も手作業であり、近年では問題となっていますが徹夜で行っています。DNAの抽出効率は食品から直接抽出することも可能ですが、食品によって前処理を加えないと良い結果が得られないこともあります。

PCRの機器が高価で食品企業の現場には導入しにくいのではないか?

PCR装置は現場に持ち込むものではないのですが、条件設定などの検討で使用することになります。リアルタイムPCRの機器だと数百万円の装置が必要になるかと思われます。

オーガナイザーからの追加コメント

ある程度までの自動化は可能と思われるものの、そもそもこれは一企業が導入して利益が出るような検査手法ではないと思います(将来的に、公設の食品技術センターのようなところが対応できるようになればよいのでは)。

質問8
カット野菜の消費期限の確認の一部に、O157のイムノクロマトの利用を指導していますが、損傷菌の存在を考慮した場合には適切でしょうか不適切でしょうか?通常のPCR、EC培地も併用しています。気をつけるべきことがあれば御教授下さい。

会場での回答の概要

原理的に菌の生死によらず反応するので、菌の損傷状態は関係しないでしょう。イムノクロマトでO157の検査はやっても無駄です。感度が低いので、万が一検出されるほどの菌がいれば、人の生き死になってしまいます。衛生管理を考えた場合、通常のE.coliの検査を行い、菌が増えてきたら工程を見直すなどするほうが実用的でしょう。

坂元先生からの追加コメント

抗体の感度よりも増幅培養した後のO157選択培地や、さらにPCR検査の感度の方が比較にならないくらい高い。損傷菌は生死判定の問題で、1細胞でも生存すれば指数的に増幅する危険性がある。イムノクロマトは抗原の検出感度の量の有無で、生死はわからない。仮に検出されるなら相当な細胞数が存在していたことになる。

パネラーからの総括コメント

  • 損傷菌の検査については、導入を考える各企業が自社の製品の特性を考慮した上で目的に沿って最適化するしかありません。どこかで妥協せざるを得ませんので、ほどほどにすることが必要です。
  • 現場が「変なことが起こっている」と実感されますが、なかなか状況を教えていただくことがありません。是非、教えていただきたいと思います。機会があればご連絡ください。
  • 本日の情報提供が皆様のお役に立てると良いのですが、なかなか難しいかと思います。損傷菌による問題は自己リスクとなりますので、その対応にご協力できればと思います。ただ、最後は自分で頑張るしかないということを忘れないでいただきたい。

以上

(更新:2021.5.6)

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