定期通信 第44号

定期通信第44号は、2019年11月14日に中央区立日本橋公会堂で開催されました「2019年度研修会」の聴講録です。抄録とスライドハンドアウトが掲載されている、会誌「食の安全と微生物検査」第9巻第3号とあわせてご覧ください。

研修1: HACCP制度化に向けた食品衛生法の政省令の改正 / 福島 和子 先生
研修2: アメリカ及びEUにおける小規模事業者に対する衛生監視指導 / 窪田 邦宏 先生
研修3: HACCPの制度化に向けた、農林水産省補助事業としての手引書作成支援とWEBでの情報提供 / 富松 徹 先生

研修1
HACCP制度化に向けた食品衛生法の政省令の改正
福島 和子 / 厚生労働省 食品監視安全課 HACCP企画推進室 HACCP国内対策専門官


食品衛生法は、食品の安全性を確保し、国民の健康の保護を図ることを目的とした食品等事業者規制を中心とした制度であり、昨年6月に公布された「改正食品衛生法」は前回の改正から15年ぶりの改正となった。

今回の改正は、国内の高齢化や世帯構成人数の減少などによる“中食”の増加、TPP11や日・EU-EPAなどの経済連携協定の締結、さらには国産の農林水産物・食品の輸出などの食品流通のグローバル化など、食品安全をめぐる環境変化に対応し、国内の食品の安全性を確保の仕組みを大きく前進させるものもある。

改正の趣旨として「我が国の食をとりまく環境変化や国際化等に対応し、食品の安全を確保するため、広域的な食中毒事案への対策強化、事業者による衛生管理の向上、食品による健康被害情報等の把握や対応を的確に行うとともに、国際整合的な食品用器具等の衛生規制の整備、実態等に応じた営業許可・届出制度や食品リコール情報の報告制度の創設等の措置を講ずる」とあり、改正の内容は7つある。

1. 広域的な食中毒事案への対策強化

国や都道府県等が、広域的な食中毒事案の発生や拡大防止等のため、相互に連携や協力を行うこととするとともに、厚生労働大臣が、関係者で構成する広域連携協議会を設置し、緊急を要する場合には、当該協議会を活用し、対応に努めることとする。

2. HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化

原則として、すべての食品等事業者に一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。(事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法。先進国を中心に義務化が進められている。)ただし、規模や業種等を考慮した一定の事業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。
業界団体が策定し、厚生労働省が確認した手引書による対応が可能となった。

3. 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

健康被害の発生を未然に防止する見地から、特別の注意を必要とする成分等を含む食品について、事業者から行政への健康被害情報の届出を求める。

4.国際整合的な食品器具・容器包装の衛生規制の整備

食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみ使用可能とするポジティブリスト制度の導入等を行う。

5.営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設

実態に応じた営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。営業許可業種以外の食品等事業者は、保健所へ届出をし、食品衛生監視員による衛生管理に関する指導や助言が行き届くことを期待する。

6.食品リコール情報の報告制度の創設

営業者が自主回収を行う場合に、自治体へ報告する仕組みの構築を行う。

7.その他

乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体等の食品輸出関係事務に係る規定の創設等。
なお、施工期日は公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日(ただし、1.は1年、5.と6.は3年)とされた。


HACCPに沿った衛生管理の制度化

前記の改正の中で目玉となるのは、2.の「HACCPに沿った衛生管理の制度化」である。改正食品衛生法では、HACCPの制度化を令和2年6月1日施行としており(1年の猶予期間があり、令和3年6月1日から完全施行)、施行に向けて令和元年10月9日に政令第123号、令和元年11月7日には厚生労働省令第68号が公布され、今後、都道府県等で改正法、政省令を踏まえて条例改正が行われる。

HACCPの制度化の主旨は、全ての食品等事業者は“衛生管理計画”を作成して衛生管理を行うことである。概要として、①:食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組(HACCPに基づく衛生管理)と②:取り扱う食品の特性等に応じた取組(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)がある。

①:食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組(HACCPに基づく衛生管理)は、CodexのHACCP7原則に基づき、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し、管理を行う。対象事業者として“大規模事業者”、高度な衛生管理が求められる“と畜場、食鳥処理場等”がある。

上記事業者以外の小規模事業者等は、②:取り扱う食品の特性等に応じた取組(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)として各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う。


令和元年10月9日 政令第123号 

令和元年10月9日に公布された政令第123号では、各事業者が実際に行う具体的な内容を示している。厚生労働省が「一般的な衛生管理に関すること」及び「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」に関する基準を作成し、その基準に基づき“衛生管理計画書”を作成し、さらに食品等の取扱いに従事する者及び関係者に周知徹底を図るよう明記されている。

さらに、清掃、洗浄、消毒や食品の取り扱い等について“手順書”を作成し、衛生管理の実施状況を“記録し、保存”する。そして定期的に衛生管理計画及び手順書の効果を“検証”し、繰り返し同様の問題が生じているなどの場合、対応策を考え“衛生管理計画”に“反映する”というものである。

同政令内で小規模事業者についても定義されている。
「食品を製造し、又は加工する営業者であって、食品を製造し、又は加工する施設に併設され、又は隣接した店舗においてその施設で製造し、又は加工した食品の全部又は大部分を小売り販売するもの」とは、パン屋や豆腐屋のように製造と販売が隣接しているような店舗を指す。
「飲食店営業又は喫茶店営業を行う者その他の食品を調理する営業者(調理機能を有する自動販売機を含む)」とは、調理をして提供するような店舗を指す。
「容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する営業者」とは食品を分割して容器包装に入れ又は容器包装で包み小売販売をするコーヒーやお米を測り売るような営業者を指す。

令和元年11月7日 厚生労働省令第68号

実際に“衛生管理計画”を立てるための基準が令和元年11月7日に厚生労働省令第68号で公布された。内容は特に新しいものではなく、厚生労働省が既に出していた「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針」を踏襲している。


一般的な衛生管理に関することとして、

  1. 食品衛生責任者等の選任
  2. 施設の衛生管理
  3. 設備等の衛生管理
  4. 使用水等の管理
  5. ねずみ及び昆虫対策
  6. 廃棄物及び排水の取扱い
  7. 食品又は添加物を取り扱う者の衛生管理
  8. 検食の実施
  9. 情報の提供
  10. 回収・廃棄
  11. 運搬
  12. 販売
  13. 教育訓練

が示されている。さらに食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組(HACCP導入型基準としてHACCPに沿った衛生管理に関する基準)として、

  1. 危害要因の分析
  2. 重要管理点の決定
  3. 管理基準の設定
  4. モニタリング法の設定
  5. 改善措置の設定
  6. 検証方法の設定
  7. 記録の作成

がある。省令とともに公布された施行通知の内容のポイントをいくつか紹介する。
一般的な衛生管理に関する基準として以下の各点がある。

1. 食品衛生責任者等の選任が重要な事項であり、HACCPに沿った衛生管理を行うにあたり、全ての食品等事業者に食品衛生責任者を置くこととしている。また食品衛生責任者は、食品衛生に関する新たな知見を習得するための講習会(実務者講習会)を受講することが努力義務として規定されている。

2. 施設の衛生管理として、食品又は添加物を取り扱い又は保存する区域において動物を飼育しないこととあるのは、調理区域においてのことであり、原則として食品等取扱い区域に客席は含まれていない。補助犬を伴った飲食店の使用を妨げないように施行通知でも明記された。

4. 使用水等の管理として、「飲用に適する水」とあるのは、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)において規定される「食品製造用水」とは異なる。「飲用に適する水」としての検査項目及び検査頻度については、従来どおり各都道府県において判断し、食品等事業者に対して必要な指導を行う。

5. ねずみ及び昆虫対策として、年2回以上の駆除作業の代わりに、生息状況等の調査を重視した総合的有害生物管理(IPM)の考え方を取り入れた駆除方法を用いて差し支えないとしている。

7. 食品又は添加物を取り扱う者の衛生管理では、営業者に対し食品等取扱者の健康状況の把握及び症状による判断をして、責任持った対応を求めている。

13. 教育訓練として、食品等取扱者に対して衛生管理に必要な教育の実施、教育訓練の効果の検証、見直しを求めている。教育訓練とは施設の状況に応じて朝礼での声掛けや社内への掲示等で効果的な方法を行う。

HACCPに沿った衛生管理に関する基準としては、Codex委員会のガイドラインにおいて示されている“HACCPの7原則”に基づくものとなっている。厚生労働省が管理運営基準で示していた“7原則12の手順”のうち、「危害要因分析・重要管理点方式を用いて衛生管理を実施する班の編成」、「製品説明書及び製造工程一覧図の作成」等、1から5の手順については、今回の省令の“1.危害要因の分析” を行うために必要な準備作業として包含されている。

“2. 重要管理点の決定”について、危害要因分析の結果、重要管理点を定めないこととした場合は、その理由を記載し、食品衛生監視員等に対し明確に説明可能にしておく。

“3. 管理基準の設定”において、管理基準は機器による測定可能な指標のほか、外観等の官能的指標もありうる。

“4. モニタリング方法の設定”において、モニタリングに関する記録は、実施者及び責任者の確認の記録をすることとする。

“6. 検証方法の設定”で、検証項目はモニタリング、改善措置記録、計測機器等の検証が考えられるが、厚生労働省として詳細は規定してはおらず、営業者が必要に応じて適切な項目を設定する。なお、小規模事業者等とは、「令第34条の2」に規定する営業者のことである。小規模な営業者等は、業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した“手引書”に則って衛生管理を実施することにより、HACCPに沿った衛生管理に適合するものとして取り扱う。

「衛生管理計画策定のための手引書」については、厚生労働省が各食品業界団体へ作成を依頼し、厚生労働省の食品衛生管理に関する技術検討会で内容を確認している。確認後はホームページ等への公開や地方自治体へ通知を行う。

地方自治体では、手引書に基づく衛生指導をしていただき、全国一律で衛生管理ができるようにしていきたい。現在公表されている手引書は50業種程度あり、細分化され、どの手引書を使用すれば良いのか迷うかもしれないが、自らの業態にできるだけ近い業種の手引書を参考にして自社の衛生管理体制の構築を始めていただきたい。

施行の日が近づいているが、厚生労働省としても制度の周知徹底やHACCP導入に向けての支援をしていく予定である。

(更新:2020.1.15)

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研修2
アメリカ及びEUにおける小規模事業者に対する衛生監視指導
窪田 邦宏 / 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 第二室長


小規模食品取扱い事業者(以下、小規模事業者)等に対して、Codexが規定するHACCPの導入をそのまま義務づけることは困難であり、弾力的な運用についての検討および科学的知見の提供等の支援が必要である。

そこで、HACCPの弾力的な運用を必要とする小規模事業者等が手順書の作成、製造過程の検証手法に求められる事項の検討に必要と思われる科学的知見の収集、整理、提供等を行うため、厚生労働科学研究「小規模事業者等におけるHACCP導入支援に関する研究(研究代表者 五十君靜信)」において、海外における制度の運用状況を把握するため、米国や欧州における“HACCPに係わる制度”が実際の指導現場でどのように運用されているのか、その状況について調査、分析・評価を行い、我が国における制度化にあたり、弾力的に運用すべき事項の検討を行っている。

米国では2つの州の大都市部および大都市圏外での食品衛生監視指導実態調査として、ワシントン州シアトル市キング郡(大都市)、キットサップ郡及びクラーク郡(大都市圏外)を、また、オレゴン州ムルトノマ郡(大都市圏外)を訪れた。

監視指導の管轄は、ワシントン州及びオレゴン州では州をまたいで、全米に出荷される製品は米国食品医薬品局(US-FDA)及び米国農務省食品安全検査局(USDA-FSIS)が担当し、州内のみで流通する製品は各州保健局および各州農務省が担当しており、今回調査を行った小規模事業者の監視指導は各郡の当局が担当していた。

米国では州によって“Food Code”が多少異なるものの、基本的には米国食品医薬品局(US-FDA)作成の“FDA Food Code”をそのまま使用するか、それをベースとして多少変更したものを“州のFood Code”として制定し、それを監視指導に使用している。

調査した2州および4郡は各“州のFood Code”を元に小規模事業者の監視指導を行っていたが、その内容はHACCPの考え方に基づいたリスクベースの監視指導であった。食品営業許可は1年の期限で、リスクレベルによって3段階に分けられ、それぞれ手数料が異なっていた。この手数料には定期監視および教育訪問1回に係わる費用も含まれる。

  • リスクレベル1: 調理工程が含まれない事業者
  • リスクレベル2: 限定的な調理工程が含まれる事業者
  • リスクレベル3: 調理工程が含まれる事業者

米国では食品衛生監視員の給与等も含めた監視指導活動に係わる費用は、基本的にこれらの“営業許可費”で賄われている。米国では受益者負担の考え方が一般的であり、事業者側もそれを理解し、納得している。

監視員は“身分証明書”と“中心温度計”、“放射温度計”、“各種試験紙”、および“監査結果アップロード用のノートPCまたはタブレット”、“プリンター等”を基本装備としており、事前通告のない抜き打ちで訪問し、指導内容を点数化してその場で監視結果を事業者と共有していた。違反点数を加算していき、一定点数を超えた場合には再監視となっていた。

指導の重点事項は温度管理であり、温度管理記録(ログ)や食品の中心温度の実測値を確認していた。提供する直前の食品に中心温度計を刺し、問題がなければ計測によって“穴が開いた食品”でもそのまま利用客に提供されていた。利用客もその行為を受け入れているようであった。

欧州ではデンマークの食品衛生監視指導実態調査として、大都市部のコペンハーゲン市、大都市圏外としてキューゲ市を訪れた。デンマークでは各自治体ではなくデンマーク獣医食品局(DVFA)職員が食品衛生に関する全ての業務を担当していた。

デンマークでは“EU規則”に従ってすべての食品取扱事業者においてHACCP運用が要求されているが、一般消費者や小規模事業者にはHACCPの概念を単純化した「Egenkontrol(Self ControlまたはMy Controlの意)」という言葉に置き換え指導していた。

“Egenkontrol”では事業を開始する時点でリスク評価を行い、CCPを設定する必要があるが、DVFAのWebサイトにある雛形を使用することで比較的簡単にプラン作成が可能となっている。レストラン等の小規模食品衛生事業を開始する際には、DVFAの登録サイトで申請すると直ぐに営業が許可され、約3週間後にDVFAの食品衛生監視員が最初の食品衛生指導に訪れる。

デンマークの監視指導では監視員は白衣を着用し、“身分証明書”と“中心温度計”、“放射温度計”、“各種試験紙”、および“監査結果アップロード用のノートPCまたはタブレット”、“プリンター”および“法規集等”を基本装備としているが、主に徒歩での移動としているためキャリーバッグ等を用いていた。

指導の重点事項は、温度管理や手洗いをはじめ各食材の調理・提供手順における一般的衛生管理の遵守等であり、問題点が見つかっても次回までに改善するように指導するなど、教育的な立場での対応が主であった。

米国、デンマーク共にHACCPの考え方に基づく食品衛生監視を実施しており、温度管理記録を義務付けるなど現実的な指導を実施していた。監査結果は店頭及びWebサイトに掲示されることで消費者が利用する前に情報が得られ、事業者の衛生管理意識の向上に効果が認められた。

(更新:2020.1.15)

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研修3
HACCPの制度化に向けた、農林水産省補助事業としての
手引書作成支援とWEBでの情報提供
富松 徹 / 食品産業センター 技術環境部部長


1. HACCP制度化の背景と課題

HACCP制度化は、食中毒件数の下げ止まりや危険異物混入による回収の増加、インバウンド消費の拡大などを背景に進められてきたが、重要な課題は食品製造業の99%を占める中小企業、特に従業員数4名以下の零細企業への普及対策である。

HACCPの普及には、“道具立て”すなわち「手引書」の提供とHACCP取得の魅力を高め、それを如何に伝えるかの誘意性が必要となる。「手引書」は、食品等事業者の「HACCPに沿った衛生管理」のマニュアルになると同時に、保健所等による監視指導の基準ともなるため、特に重要である。小規模企業の底上げのためには、HACCP制度化、HACCPの普及に向けた教育・研修活動、HACCP導入に向けた支援ツール・情報の提供、専門人材の育成等、多岐にわたった支援が必要となる。

2. HACCP制度化に向けた食品産業センターの対応

食品産業センターでは、農林水産省の補助事業として各種業界団体の手引書作成支援を行っている。2017年度には7団体、2018年度には10団体の手引書作成を支援し、今年度も25団体、28手引書の作成支援を行っている。

食品産業センター支援の手引き書を含め、現在までに48の手引書が厚生労働省のホームページに掲げられている。また、今年度末までには100を超える手引書が公表される予定である。

3. 手引書作成と活用

手引書の作成においては、対象食品の範囲の設定が非常に重要であり、難しい点でもある。「HACCPの考え方を取り入れた衛生」の実施では、「衛生管理計画の作成」と「実施した記録を残す」ことが大切である。対応を迫られている小規模事業者における最も簡単な対応方法は、“適切な手引書”を選び、その衛生管理計画の事例と記録様式をコピー&ペーストすることであるが、危害要因を理解することなく丸写ししてしまうと自社のプロセスに特有の危害要因を見逃す恐れがある。

例えば、「菓子の手引書」では、菓子類が第1から第5までの5つに分類されている。菓子類の食中毒件数を見ると、第3分類(加熱後手細工加工等が入る菓子)に該当する菓子でノロウイルス、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌による食中毒件数が突出して多い。したがって、同じ菓子製造業であっても、製品が第3分類に該当するのであれば、一般衛生管理としての「従業員の健康管理・衛生管理」および「卵の取扱い」が重要であることが明らかになってくる。

このように、コピーして活用するだけでなく、自分の事業にとって何が危害要因であり、それをどのように管理すべきかを理解して活用して頂きたい。

4. 手引書作成の難しさ

手引書の作成では、対象の範囲が明確でなければ、製品説明書もフローダイアグラムも作成できず、結果として危害要因分析も管理措置も明確にできないことになる。さらに伝統食品や新たな加工技術、新たなビジネスモデル等の中には、危害要因管理が単なる経験に基づくものや、科学的な説明が容易でないもの、管理主体者が明確でないものも少なくない。

例えば、“鰹節”製造の手引書案(非公開打合せ会)において、ヒスタミン産生の低減化のため、解凍槽内水温が4.4℃以下となるように手順が示されている。しかし、水産加工の現場の声として、4.4℃解凍した魚は硬すぎてカットするのが危険であり、多くの事業者の実態としては温水を用いて解凍しており、4.4℃以下には管理できていないという実情がある。この様な状況を踏まえて、ヒスタミン産生の危害要因を制御しつつ、実行可能な手引書にする必要がある。

また、“ところてん”製造の手引書案(非公開打合せ会)では、微生物制御の科学的な妥当性確認を小規模事業者が実施するのが容易でないという実態も確認できた。“辛子めんたいこ”、“辛子めんたいこ和え物”製造の手引書案(非公開打合せ会)では、どこまでが“辛子めんたいこ和え物”で、どこからが“惣菜”なのかといった定義が不明である、といった意見も出されている。

5. 普及に関する課題(業界団体へのアンケート調査)

これまでに手引書が作成された20団体へ、①:手引書を作って良かったこと・反省点、②:会員企業への普及活動と反応、③:非会員企業への普及活動や問合せ状況、④:現行の農水省補助事業以外でのHACCP制度化への施策、などについてアンケート調査を実施した。その結果、「分かりやすい指南書が出来た」、「業界の衛生管理の平準化や考え方の統一ができた」と言った回答があった。

一方で、「小規模企業が記録を継続できるか」、「一般衛生管理さえやっていればいい」、「衛生管理はこの程度でいい」、といった誤解が生じることが懸念されている。また普及活動については、非会員企業(アウトサイダー)への積極的な普及活動は容易ではないないといった課題も浮き彫りになってきている。

6. 「危害要因データの収集・提供」、「記録から学ぶ衛生・品質管理」

食品産業センターでは、平成30年度農林水産省補助事業として「危害要因データの収集・提供」、「記録から学ぶ衛生・品質管理」を実施し、その成果を提供している。「危害要因データの収集・提供」では、中小企業の方が「HACCPに基づく衛生管理」にチャレンジする際の技術的な支援、地方自治体の監視指導員の方々に対する危害要因関連情報の提供を目的に、危害要因データベース、HACCP内外関連情報データベースなどをホームページ上で提供している。

このデータベースでは、原材料、加工方法、危害要因の種類などを選択して検索することが可能となっている。また「記録から学ぶ衛生・品質管理」では、食品取扱い事業者が前向きに・主体的に記録を作成できるよう、記録の意義と意味を解説すること、記録から遡って食品の品質や安全を考えてもらうことを目的に記録例を示し、その記録の意義や衛生管理の考え方を示している。

さらに、職場における勉強会での活用を想定し、1テーマを1シートで完結させた43シートを準備して、提供している。
これらは、食品産業センターのホームページから参照、入手することが可能となっている。

一般財団法人食品産業センター HACCP関連情報データベース
https://haccp.shokusan.or.jp/


(更新:2020.1.15)

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