定期通信 第43号

定期通信第43号は、稲津 康弘先生に「微生物試験法のバリデーション(妥当性確認)について」をご執筆いただきました。 是非、ご一読ください。

微生物試験法のバリデーション(妥当性確認)について
稲津 康弘 / 当法人 副理事長、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所 食品安全研究領域


バリデーションの意味とその方法

ISO/IEC 17025:2017「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」において、「バリデーション( validation:「妥当性確認」)」は、「規定された要求事項が意図した用途に十分であることを調査によって確認し、客観的な証拠を用意すること(5.4.5.1)」と定義され、そのための手段には「試験所間 実験(interlaboratory study)」と「単一試験所 実験(single laboratory study)」がある。

この文書で前者は「事前に定めた条件に従って、二つ以上のラボラトリが、同一品目又は類似品目で行う、測定又は試験の規格、実施及び評価」、後者は「事前に定めた条件に従って、同一のラボラトリ内で、同一品目又は類似品目で行う、測定又は試験の規格、実施および評価」と、それぞれ定義されている。

もう少しわかりやすい(が不正確な)言葉で説明すると「ある測定方法で正しい/信頼できる結果が得られるかどうかの確認を行うこと」が分析方法の「妥当性確認」であり、そのためには「その方法を用いて正しい値/結果がわかっている検体を一つまたは複数の試験室で分析してみればよいだろう」というシンプルな話である。

定量分析の場合は「得られた結果がどれくらいばらついているか」(精度:precision)および「得られた結果が真の値からどれくらい外れているか」(かたより:bias)という点が特に結果の不確かさに影響を与え、両方が小さいものが良い分析法であることは言うまでもない。一定の範囲の分析値を与えることがわかっている検体(標準検体)を同じ試験室で何度も分析すれば、その試験室内で分析を行った場合の分析精度およびかたよりが評価できる。

しかし別の試験室で同じ結果が再現されるかどうかまではわからないので、標準検体を複数の試験室に配布して共同試験(コラボ試験)を行うことで、分析法の妥当性を確認するわけである。

微生物試験の国際標準法はバリデート済みである

世界レベルの話としてはISO(International Organization for Standardization)技術委員会34「食品製品(Food Product)」分科会9「微生物学(Microbiology)」(ISO/TC 34/SC 9)が、欧州圏では欧州標準化委員会(European Committee for Standardization)の技術委員会275「食品分析(Food analysis)」ワーキンググループ6「フードチェーンの微生物学(Microbiology of the food chain)(CEN/TC275/WG6)が、それぞれ食品の微生物試験法に関する標準化の仕事を行っている。

1996年まで標準法(standardized reference methods)は 共同試験に基づくパフォーマンス特性(performance characteristics)によらず、有力な専門家の意見や歴史的経緯に基づいて定められたものが多かった(Leclercq et al. 2019)。しかし現在ではいずれの組織においても標準法の策定に当たっては共同試験(collaborative studies)に基づいたfull validationが要求される。またAOAC Internationalは2012年に”Methods Committee Guidelines for Validation of Microbiological Methods for Food and Environmental Surfaces”という文書を発行している。

ここで”performance characteristics”とは、定量試験については“repeatability”と“reproducibility”、定性試験については”sensitivity”、”specificity”、”accordance”および”concordance”から、それぞれ構成される(これらの用語の定義はISO/IEC Guide 99 : 2007やJIS TS Z0032などを参考にされたい)。ISO/IEC 17025:2017ではperformance characteristicsの例として「測定範囲、精確さ、結果の測定不確かさ、検出限界、定量限界、方法の選択性、直線性、繰り返し性又は再現性、外部影響に対する頑健性、又は試料若しくは試験対象マトリクスからの干渉に対する共相関感度、及び偏り」が列記されているが、これに限定されるわけではない(7.2.2.3)。

ISO/IEC 17025:2017には「顧客が指定しない場合、 試験所は適切な方法を選定し、それを顧客に通知する」との要求事項(7.2.14)が含まれる。2005年版の同文書では分析方法として国際規格、地域規格、国家規格の優先的使用が要求されており(5.4.2)、これらの分析方法は通常、その作成過程で試験所間 実験を実施することにより妥当性の確認が行われている。2017版ではこの部分が推奨事項に変更されたため、それ以外の方法の使用も許されることになったが、その場合でも妥当性確認を行う必要はある(7.2.2.1)。

微生物試験のバリデーションに関する最新の論文

International Committee on Food Microbiology and Hygiene (ICFMH) が2019年2月に出した雑誌“International Journal of Food Microbiology”288巻(2号)に、” European and International validation of 15 main reference methods in the microbiology of the food chain”という特集が組まれており、これには以下のような記事が含まれる。

https://www.sciencedirect.com/journal/international-journal-of-food-microbiology/vol/288/suppl/C

  1. Leclercq A. et al. “European and International validation of 15 main reference methods in the microbiology of the food chain”(p. 1-2)
  2. Mooijman K.A. et al.“Validation of EN ISO 6579-1 - Microbiology of the food chain - Horizontal method for the detection, enumeration and serotyping of Salmonella - Part 1 detection of Salmonella spp.”(p. 3-12)
  3. Besse N.G. “Validation of standard method EN ISO 11290 - Part 1 - Detection of Listeria monocytogenes in food”(p. 13-21)
  4. Rollier P. “Validation of standard method EN ISO 11290 - Part 2 for the enumeration of Listeria monocytogenes in food.”(p. 22-31)
  5. Jacobs-Reitsma W.F. et al. “Validation by interlaboratory trials of EN ISO 10272 - Microbiology of the food chain - Horizontal method for detection and enumeration of Campylobacter spp. - Part 2: Colony-count technique”(p. 32-38)
  6. Biesta-Peters E.G. “Validation by interlaboratory trials of EN ISO 10272 - Microbiology of the food chain - Horizontal method for detection and enumeration of Campylobacter spp. - Part 1: Detection method”(p. 39-46)
  7. Benito A. et al. “Validation of standard method EN ISO 22964:2017 — Microbiology of the food chain — Horizontal method for the detection of Cronobacter spp.” (p. 47-52)
  8. Tozzoli R. et al. “Validation on milk and sprouts of EN ISO 16654:2001 - Microbiology of food and animal feeding stuffs - Horizontal method for the detection of Escherichia coli O157” (p. 53-57)
  9. Hartnell R.E. et al. “A pan-European ring trial to validate an International Standard for detection of Vibrio cholerae, Vibrio parahaemolyticus and Vibrio vulnificus in seafoods”(p. 58-65)
  10. Hallanvuo S. et al. “Validation of EN ISO method 10273 - Detection of pathogenic Yersinia enterocolitica in foods”(p. 66-74)
  11. Biesta-Peters E.G. et al. “Validation by an interlaboratory collaborative trial of EN ISO 21528 - microbiology of the food chain - horizontal methods for the detection and enumeration of Enterobacteriaceae”(p. 75-81)
  12. Lowther J.A. “Validation of EN ISO method 15216 - Part 1 – Quantification of hepatitis A virus and norovirus in food matrices”(p. 82-90)
  13. Veld P.H. et al. “Elaboration and validation of the method for the quantification of the emetic toxin of Bacillus cereus as described in EN-ISO 18465 - Microbiology of the food chain – Quantitative determination of emetic toxin (cereulide) using LC-MS/MS”(p. 91-96)
  14. Duflos G. et al. “Validation of standard method EN ISO 19343 for the detection and quantification of histamine in fish and fishery products using high-performance liquid chromatography”(p. 97-101)

 

ISOや欧州標準化委員会が行った微生物試験のバリデーションの現状に関して興味をお持ちの方は、以上の論文のうち必要なものを入手して一読する価値があるようにも思われるが、そのようなことを知らなくとも決められた方法を使用して分析業務を行うことに支障はないだろう。


(参考文献)

  1. 藤間一郎・大高広明(編著)『ISO/IEC 17025:2017 試験所及び校正機関の能力に関する一般事項 要求事項の解説』日本規格協会(2018年)
  2. JISハンドブック 56 『標準化 2017』日本規格協会(2017年)
  3. AOAC International “Methods Committee Guidelines for Validation of Microbiological Methods for Food and Environmental Surfaces” (2012年)

 

(更新:2019.10.12)

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