定期通信 第30号

定期通信 第30号では、2016年6月2日(木曜日)午後、中央区立日本橋公会堂で開催されました平成28年度講演会にて、ご講演をいただきました2名の先生のお話を簡単にまとめたものを掲載させていただきます。
また、会員からの質問と演者からの回答についても2つだけですが、掲載させていただきました。

【 講演Ⅰ】
HACCPへの予測微生物学の導入と活用~CCP及びCL設定に使える有用なツール~(小関 成樹 先生)

【 講演Ⅱ 】
微生物のリスク管理を支援するための低水分活性食品リスクランキング~FAO/WHO合同微生物学的リスク評価専門家会議(JEMRA)から~(小島 三奈 先生)

講演Ⅰ
HACCPへの予測微生物学の導入と活用~CCP及びCL設定に使える有用なツール~
小関 成樹 (北海道大学大学院 農学研究院 准教授)


予測微生物学とは微生物もしくは対象菌の増殖あるいは死滅に関わる様々な要因との関係を数値化し、関係性を見出すものであり、最近ではリスク管理、リスク評価への期待が高まってきている。食品の微生物学的な安全性を確保するためには食品における微生物学的挙動に関するデータ、情報、知識が必要不可欠である。これまではデータをみて経験や勘で意思決定していたものが数理モデルやデータベースを用いて客観的データを基に意思決定すれば担当者が変わってもデータが分かり、業務の効率化にも繋がる。

Webデータベースを使うメリット

  1. 簡単、速い、コスト削減
  2. 大量の情報を網羅的に検索が出来る
  3. デジタルデータとして保有、利用出来る

以上の事からHACCPプラン策定に活用することができる。

食品では微生物学的な見地から消費期限を設定しており、生産→流通→加工→流通→調理・加工といった流れをたどって最終的に食べる時の菌数を考慮して決定される。すなわち初発菌数が多くとも加工の段階で殺菌する事により菌数が減少し、流通において時間の経過とともに少しずつ菌数は増えるが、目標菌数を下回れば安全が確保されると考える。

このイメージを数値化すると

H0(初発菌数)-ΣR(減少菌数)+ΣI(増加菌数)<FSO(目標菌数)

食品関係での菌数の取り扱いは通常対数(log10)を使う。上記の式に簡単な数字を当てはめると微生物の増殖は3桁の菌数増加に抑える流通条件・日数が必要と考えられる。ここでWebツールを用いて期限設定の根拠を見出すことが出来る。

Webデータベースの1つであるComBaseは登録は必要であるが、無料で使用する事ができ、世界中の人々が微生物挙動データを検索収集することが可能である。調理・加工である程度物理化学的な調整ができるものの検索ができる。
ComBaseでは温度、pH、水分活性の様々な組み合わせによる細菌増殖挙動を把握できる。培地を選択し、Growth Modelに製品のpHと水分活性、想定される保存・流通温度の情報を入力するとグラフが出てくる。初発菌数を101個と仮定し3桁増加の104に達成するまでの時間がわかる。

細菌数増殖の基本式は、Nは菌数、μmaxは最大比増殖速度(1/h)とするとN=N0 exp(μmax t)の式に置き換えられる。しかしこれは最短での増殖シナリオであり、ラグタイムを考慮していない計算結果になる。これを加味すると予測範囲は広がるがどこをとればいいのか曖昧になり確率論的に議論・判断しなくてはならなくなる。安全面を考えると上記の式で判断する方が無難な場合が多い。

続いてHACCPのCL(Critical Limit,許容限界管理基準)設定をするためにもう1つのWebツールMRVを用いる。食材の加工度合いが低い肉類、刺身、野菜などの食材での検索が出来る。菌種を選び、食材を選ぶとデータがプロット点であらわれ増殖、非増殖の環境条件がわかる。また1つ1つのプロット点にその条件に収録されている基本データが見られるようになっている。上記の式を用いて菌数の3桁増加を抑えるための保存温度を検討することも可能である。

以上の二つのWebツールを用いてHACCPプランの策定に活用できると考えられる。
ComBaseを活用し細菌の増殖予測結果からCCP(Critical Control Point,重要管理点)の探索が可能であり、MRVを利用して細菌を増殖させない環境条件の設定はCL設定に有効であると考えられる。

◎ 聴講された会員からの質問

質問1

個々の菌種においてもバラツキや条件により予測値に大きな変化があるとは思いますが、一般的に微生物汚染の指標として用いられている「一般生菌数」、「大腸菌群数」。「腸内細菌科菌群」などざっくりとしたデータの解析に用いることはむずかしいでしょうが、仮に上記のような汚染指標菌群を考える場合、それぞれ代表として用いられる菌種等はありますか。私は、食肉衛生検査所で仕事をしておりますので、食肉処理における代表となりうる菌種についてお教え頂ければ幸いです。

【 回答 】 肉の種類によっても多少異なりますが、 食肉の細菌叢はPseudomonas、 AcinetobacterMoraxella などのグラム陰菌、Micrococcus Coryneforms、 Staphylococcus、 Lactobacillus、 Brochothrix などのグラム陽性菌と多岐に渡っております。初期(どこを初期とするかは難しいですが)段階において、 Pseudomonas属が多くの場合に優勢菌種となっているとの報告が多いです。しかし、腐敗が進行してくると菌叢バランスが崩れてきて、初期に優勢であったPseudomonas属に代わってLactobacillus属系が優勢菌種になるとの報告があります。また、当然のことながら包装形態(真空包装か否か)によっても異なってきます。

以上のように、一概にどの菌種をみれば良いとはなかなか言い難いのですが、あくまでも可食期限内での議論ということであれば、Pseudomonas属を一つの指標とするのがベターな選択かと思います。

質問2

ComBaseの食品マトリクス及び微生物種(腐敗微生物等)への拡大の予定はないのでしょうか。

【 回答 】 ComBaseの食品マトリクスおよび微生物種への拡大予定は今のところないです。というのも、開発・公開してから10年余が経過して、維持運営母体をどうするのか、維持管理費はどうするのか、といった実務上の問題が顕在化してきております。ですので、現状を維持していくのが今のところ精一杯といったところです。ComBaseを上手く使いつつ、独自に日本の実態に応じたデータベースの構築という戦略はありかと思いますが、これも結局支持母体がないと長続きしません。ちなみにMRVは食総研から実質上切り離して、当方で維持管理しております。


(更新:2016.7.2)

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講演Ⅱ
微生物のリスク管理を支援するための低水分活性食品リスクランキング
FAO/WHO合同微生物学的リスク評価専門家会議(JEMRA)から~
小島 三奈 (厚生労働省 医薬・生活衛生局 生活衛生・食品安全部 企画情報課 国際食品室 国際調整専門官)

1. リスクランキングの概要

リスクランキングは、リスク分析の枠組みの中で実施される。リスク管理における予備的リスク管理活動(Preliminary risk management activities)において、リスク評価を依頼する必要があるかどうかを決定する際や、優先的にリスク管理をすべき事案を特定する際、リスク評価において複数のリスクファクターを順位付けする際などに実施される。

国際的なリスク分析活動においては、リスク管理者であるコーデックス委員会は、複数の評価規準(クライテリア)を用いた規格策定作業の優先順位付けをしている部会があり、リスク評価者であるFAO/WHO合同微生物学的リスク評価専門家会議(JEMRA)は、コーデックス委員会からの要請に基づき、リスクランキングを実施している。本報告は2013~2014年にJEMRAが実施した、低水分活性食品のリスクランキングである。

2. 低水分活性食品のリスクランキング

低水分活性食品とは、水分活性が0.85未満の食品を指し、病原菌に汚染されたとしても菌が増殖せず、食中毒のリスクは小さいと考えられていた。しかし近年、低水分活性食品で食中毒アウトブレイクが発生(米国におけるピーナッツバターやブラックペッパーによるサルモネラ食中毒等)したことから、2012年コーデックス食品衛生部会(Codex Committee on Food Hygiene、 CCFH)が低水分活性食品の衛生規範作成を提案し、2013年コーデックス総会で採択された。

これに伴いCCFHは、低水分活性食品のうち、どの食品(群)を優先的に取り扱うべきか検討するため、JEMRAに低水分活性食品のリスクランキングの実施を依頼した。また、最も優先度が高いとして検討すべき低水分活性食品と関連する微生物学的危害を特定し、特定された低水分活性食品に関する微生物学的危害のリスク管理に関する情報を提供するよう要請した。

JEMRAはリスクランキングに当たって、文献レビューを実施した。

文献レビューでは9種の病原菌 (①Bacillus cereus、②Clostridium botulinum、③C.perfringens、 ④Cronobacter spp. 、 ⑤Escherichia coli、⑥Salmonella spp. 、 ⑦Staphylococcus aureus、 ⑧Listeria monocytogenes、⑨Enterobacteriaceae)と8つの食品群(➀Cereals and grains,、②Confections and snack、 ③Dried fruits and vegetables、④Dried protein products、 ⑤Honey and preserves、⑥Nuts and nut products、⑦Seeds for consumption、 ⑧Spices/herbs/tea) について、食品由来疾病データ、病原菌汚染実態及びリスク管理手法(加熱殺菌など)に関する情報を収集し分析した。なお、⑤Honey and preservesはレビューの過程で除外された。

これらを分析した結果、⑧Spices/herbs/teaに関する情報が最も多く、リスク管理手法は⑥Nuts and nut products、食品由来病は➀Cereals and grainsで最も多く調査・研究されていた。病原菌は⑥Salmonella spp.①B.cereus、⑤Escherichia coliの順で多く、⑥Salmonella spp.については、汚染実態、リスク管理手法、食品由来疾病のいずれにおいても最も多く調査されていた。

次に、2014年に専門家会合を招集し、リスクランキングを実施した。リスクランキングは、文献レビューで得られた情報や専門家の知見を情報ソースとし、ランキングの目的の特定→クライテリアの特性(指標)の定義付け→対応するデータ(影響値)収集→影響値の正規化→重み付けの設定(各クライテリアの重要度について点数化し、ランキングの数式に用いる)→ランキング結果の算出→ランキングモデルのロバストネス分析のプロセスに従って実施した。この方法は、複数のクライテリアを設定するため、マルチクライテリアアプローチと呼ばれている。

本ランキングでは、4つのクライテリア(C1. 国際貿易、C2. 食品由来疾病の発生程度、C3.消費、C4.生産)と、C3とC4において3つのサブクライテリアが特定された。各クライテリアの特性については定量的なもの(例;年間輸出額)と定性的なもの(例;加工後の病原汚染の可能性に関する専門家の意見)の両方が採用された。C3とC4についてはサブクライテリアの数値を数式に入れて集計し、他のクライテリアと同様になるよう調整した。最終的に全てのクライテリアを数値化することにより、低水分活性食品のリスクランキングを特定した。

結果、C1.国際貿易及びC3.消費が多かった➀Cereals and grainsが1位で、C2. 食品由来疾病の程度(疾病負荷)が高かった④Dried protein productsと、C4.生産(段階の汚染の可能性)が高かった⑧Spices/herbs/teaが続いた。

3. JEMRAのその他のリスクランキング

2014年に低水分活性食品の評価を踏まえて、Spices and herbsについて食品群を細分化した上でリスクランキングを実施した。Spices and herbsは種類によって製造工程、病原菌の汚染リスクが大きく異なるため、植物学上の部位(果実、種子など)に食品群を分け、製造工程における衛生管理レベルと病原菌の不活化工程の有無とを組み合わせたものについてランキングを行った。

また、2012年に実施した食品媒介寄生虫のリスクランキングでは、93の寄生虫から国際的に重要なものとして選んだ24種を対象とし、マルチクライテリアアプローチ(9つのクライテリア)によるランキングを行った。いずれの結果もCCFHに提供され、コーデックスのガイドラインに参照された。

4. まとめ

リスクランキングは、リスク分析においてリスク管理者が「どの問題に優先的に取り組むか」を決める際の判断材料を提供する。低水分活性食品とSpices and herbsで異なる方法を採用したように、リスクランキングの手法は様々あるが、その際にはランキング対象の明確化、適切なクライテリアと指標の選択、感度のよいモデル設計が必要である。また、入力データによってランキングに差が出るため、リスクランキングには、良質なデータをできる限り多く収集、分析することが重要である。そして、リスク管理者はリスク管理措置を決める際にはリスクランキングの結果のみではなく、病原体の減少又は不活化措置の入手可能性、リスク管理措置の形態(規格基準の設定または衛生管理ガイドラインなど)といった他の情報もあわせて検討すべきである。

(演者からの注意事項:本報告における意見等は、演者が世界保健機関のJEMRA事務局に在籍していた際の知見に基づく個人的なものです。現職のものではありませんので、ご留意ください。)

(更新:2016.7.2)

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