定期通信 第21号

食品総合研究所 食品衛生ユニット長の稲津 康弘先生に、「食品の微生物制御技術」について書き下ろしていただきました。 是非ご覧ください。

食品の微生物制御技術
稲津 康弘
(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所 食品安全研究領域 食品衛生ユニット長)

1. 微生物制御の必要性

食品原料には種々の微生物が付着している。乳酸菌や納豆菌など、「発酵」という形で人間にとって有益な形で利用されているものもあるが、一方でPseudomonasShewanellaVibrioPsychrobacterAlcaligenesProteusErwiniaAlycyclobacillus、あるいはBacillus polymyxamacerans群細菌などのように、食品の腐敗を引き起こすものもある。また腸管出血性大腸菌、サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、ウエルシュ菌、セレウス菌、黄色ブドウ球菌あるいはリステリアなど、ヒトに対して健康危害を及ぼす菌が食品に付着している場合もある。

微生物によって引き起こされる食品安全上の問題あるいは食品品質の低下は、生産・加工・貯蔵・流通および消費の各段階における原因微生物の混入と、不適切な加工または保存の結果として生じる。微生物は食品原料の生産から消費の全ての段階で食品(原料)に混入する可能性があり、かつ条件が整えば、フードチェーンのいずれの段階においても増殖する可能性があることから、それぞれの段階を通じて混入を防止するとともに、混入した微生物の増殖を防止し、可能であれば殺菌処理によって生菌数を低下させることが必要とされる。

これを定式化したものが「(食品に菌を)付けない・増やさない・殺す」という、「(細菌性)食中毒防止の三原則」に他ならない。この三原則に従って食品の微生物学的リスクを低下させるための技術を「微生物制御技術」といい、その典型例が加熱殺菌や殺菌剤を用いた非加熱的殺菌、あるいは食品添加物を用いた静菌(増殖防止)である。芝崎の分類によれば、微生物制御技術は「殺菌」、「静菌」、「除菌」および「遮断」に区分され、それぞれが上記の3原則のいずれかを実行するための手段となる(表1)。

表1:微生物制御手法の分類
表1.:微生物制御手法の分類

技術的・経済的事情から、製造工程に十分な効率の殺菌工程を導入することが困難な場合でも、製造環境の清浄化に代表される一般衛生管理状況の改善や、従業員の衛生教育の強化を通じて、製品の安全性や品質・日持ち性を向上させることが不可能なわけではない。ただし、いかなる方法を用いたとしても、食品の「ゼロリスク」を達成することはおそらく不可能である。

2. 殺菌と損傷菌

殺菌処理は一般に「微生物を構成する主要蛋白質や核酸に直接作用して不可逆な変成を生じさせ、結果として細胞内部の物質代謝障害を引き起こす」、あるいは「微生物の細胞膜や細胞壁構造を破壊する」ことにより、目的とする効果を発生させる。

一方、静菌処理は生育環境の変化あるいは代謝に関連する酵素活性の阻害により、細胞内の代謝活性を低下させ、結果として微生物の増殖を抑制するものである。これらの処理によって生じた「致死的ではないレベルの傷害を受けた微生物細胞」(損傷菌)は、その後の周囲環境に応じて死滅するか、あるいは増殖能を回復する。損傷菌には一時的に栄養要求性が複雑化した「代謝損傷菌」と、周囲の環境因子に対して感受性が高まった「構造損傷菌」が存在する。

食品中に存在する、殺菌後に残存した損傷菌の一部は体内で増殖を再開し、食中毒発症の原因になりえる。また損傷菌の存在は、殺菌試験における残存生菌数の過小評価をもたらす。なお、希釈水や計数培地の組成、培養温度に注意を払う、あるいは「回復培地重層法」などの手法を利用することにより、損傷菌の検出効率を上昇させることが可能である。

3. 微生物の増殖に影響を与える条件

食品中における微生物の生残や発育は水分活性(aw)、pH、酸化還元電位(Eh)、栄養素もしくは発育阻害物質の有無、温度およびガス環境(包装条件)等の影響を受ける。特に重要なのが「温度」「水分活性」および「pH」であり、これらをコントロールすることで、食品中の微生物の増殖をある程度までは制御することが可能である。

通常、-18℃以下で管理されている冷凍食品中の食品中で、細菌は増殖できないが、完全に死滅するわけではない。多くの細菌は4℃以下で増殖が停止するが、ある種の低温細菌は-12~0℃でも緩慢増殖し、0~30℃前後の温度域では、通常の速度で増殖する。特にListeria monocytogenesは高塩濃度と低温の条件でも増殖可能であることから、特に非加熱畜肉製品や乳製品の衛生管理上、問題となりうる。

多くの細菌は、その常住環境の温度に応じて、室温から動物の体温程度の温度域で旺盛に発育し、45~50℃を超えると発育が極めて緩慢となる。しかし、缶詰の酸性化腐敗(缶は膨張しない)の原因となるフラットサワー細菌(Bacillus coagulans, Geobacillus stearothermophilus)や、酸性飲料の異臭変敗の原因となる好熱性好酸性菌(Alicyclobacillus属)は、55~60℃で旺盛に発育する。これらの菌は耐熱性が高いために、加熱殺菌プロセスのみならず、缶飲料などのホットベンダー販売でも問題となる。

IFTによると、芽胞形成食中毒原因菌はpH4.6、それ以外の食中毒原因菌はpH4.2以下であれば、増殖の可能性はそれほど高くないが、通常の食品でこれよりも高いpHのものについては水分活性の影響を考慮する必要がある。芽胞形成食中毒原因菌はpH5.6以上かつ水分活性0.95以上、それ以外の食中毒原因菌ではpH5.0以上かつ水分活性0.92以上の場合、微生物の増殖の可能性が高いために、温度および保存時間のコントロールを要する。

このように、水分活性とpHに基づいて食品および微生物をグルーピングし、それぞれの類別表を重ね合わせることで、食品中で増殖可能な微生物を推定する手法を「重ね合わせ評価法(ファックスアセスメント)」という。また、ある程度までは、既存のデータを利用して、特定の条件下の実食品中の微生物の挙動を推定することも可能である(予測微生物学)。

4. 微生物の物理的殺菌

微生物の殺菌および静菌処理は、用いる手段によって「物理的手法」と「化学的手法」に分けることができる。前者の代表は熱や電磁波等を使用するものであり、後者は化学合成あるいは天然から分離された化学物質を微生物制御に応用するものである。

微生物の物理的殺菌で、最もよく利用されるのは「加熱殺菌」であるが、この他に圧力を利用した「高圧殺菌」や、電磁波を利用した「紫外線殺菌」「放射線殺菌」などがある。加熱殺菌や高圧殺菌は主に細胞内部の代謝や構造維持に関与する蛋白質や、細胞膜脂質を標的とする。一方、短波長電磁波による殺菌はDNA鎖の直接的損傷と、電離作用によって生じたラジカル化合物による、二次的損傷(電離放射線のみ)による。なお、紫外線殺菌は照射物の「陰」の部分に作用が及ばない点に注意が必要である。

栄養細胞状態の微生物はおおむね75℃・数分間の加熱で殺菌することができる。ただし、Bacillus属の胞子は80℃・数十分の加熱にも耐性を持ち、また黄色ブドウ球菌が生成したエンテロトキシンは120℃・20分の加熱でも完全には破壊されない。大まかに言うと「酵母(栄養細胞)<細菌(栄養細胞)<酵母(胞子)<カビ(菌糸)<カビ(胞子)<細菌(胞子)」の順に、耐熱性が高くなる傾向がある。一般に熱殺菌は殺菌時間が長くなるほど残存菌数は小さくなり、また加熱温度が上がれば、同レベルまでの殺菌に必要な時間は短縮される。

単純なモデルとして、ある時間(t)における菌数(N)が「d(N/No)/dt=-kt」(Noは初発菌数、kは温度に依存する定数)と表される場合を考えると、これを積分することで「log (N/No)=-t/D」(D=2.303/k、logは常用対数)を得る。この式の「D値」は「殺菌によって、菌数を一桁落とす(1/10にする)のに必要な処理時間」を意味する。このD値の常用対数を温度(θ)に対してプロットすると、右下がりの直線「log D=-(1/Z)θ+C」(ZとCは定数)が得られることが、経験的にわかっている。

この式の「Z値」は「D値を1/10に短縮するのに必要とされる、温度上昇」を意味する。Z値は栄養細胞で4~9℃の範囲にあり、これから推定される死滅反応の活性化エネルギーは、蛋白質変成反応に必要なアレニウス活性化エネルギーと同程度である。芽胞はこれよりも高いZ値(7~11℃)を示すが、これはコア内の水分が低いためと考えられている。

なお、試験管内の実験で得られたD値やZ値を実食品に適用する場合には、食品中の成分による微生物の保護効果や、外部から内部への伝熱性の問題について考慮することが必要である。後者に関連して、食品製造現場や大量調理現場においては、中心温度計を使用することで、食品内部の温度が規定値を満たしていることを確認しておくことが、食中毒予防の観点から重要である。


参考文献

  1. 五十部ほか(編). 2008. 「食品のフレッシュ殺菌技術」サイエンスフォーラム
  2. 一色・松田. 2001. 「食品の非加熱殺菌応用ハンドブック」サイエンスフォーラム
  3. 倉田ほか. 1994. 「改訂 食品衛生における微生物制御の基本的考え方」日本食品衛生協会
  4. 柴崎勲. 2006. 微生物制御技術の現状と将来 その1~4. 防菌防黴. 34 (7-10)
  5. 新谷ほか. 2006-7. 損傷菌ならびに貧栄養菌の特性およびこれらの菌の修復・培養条件について 1~14. 防菌防黴. 34 (6-12), 35. (1-8)
  6. 土戸ほか. 2006.「微生物制御 科学と工学」講談社サイエンティフィック

 


(更新:2014.3.20)

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